THEライフ・シニア徒然ブログ
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雑草生態学を専門とする、静岡大学農学部教授の稲垣栄洋
さんは「『雑草は踏まれても踏まれても立ち上がる』とい
われるが、実際は踏まれたら立ち上がらない。踏まれなが
らタネを残す方にエネルギーを使う」という
幸せのシンボルである四つ葉のクローバー(シロツメクサの
葉っぱ)を見つけるにはコツがある。 じつは四つ葉のクロー
バーは踏まれやすいところに多い傾向にあるのだ。
四つ葉が生じる原因はいくつかあるが、そのうちのひとつは葉
の基になる葉原基ようげんきと呼ばれる部分が傷つくことにあ
る。踏まれると葉原基が傷ついて、三つ葉になるはずが四つ葉
になってしまうのだ。
図鑑には、よくそう説明されている。しかし、四つ葉のクロー
バーが踏まれやすいところに多いって、本当なんだろうか?そ
れが鳥海とりうみさんの研究テーマである。
鳥海さんは、心の病気で学校を休んでいた学生である。そんな
鳥海さんが、私の研究室に見学にやってきた。どうやら、私の
研究室への分属を考えているらしい。
私の研究室は広々とした農場にあるから、学生と話をするとき
に、あえて部屋の中で行う必要はない。学生と肩を並べながら、
のんびり農場の中を歩いた方が,面と向かって話すよりも話し
やすい。おそらく学生も同じだろう。
ひととおり、研究室の説明をした後、畑の土手に座って休んで
いると、鳥海さんが何かを見つけたようだ。
「四つ葉のクローバーがあります」「えっ、どこどこ?」「ほ
ら、あそこにあります」鳥海さんの指さすところを見ても、全
然わからない。
「えっ、見つからないけど、どこにある?」そうこうしている
うちに、鳥海さんが言った。
「あっ、あそこにもあります」「えっ、どこにある?」「あそ
こにもありました」 私がまごまごしているうちに、鳥海さんは、
いくつも四つ葉のクローバーを見つけていった。
「鳥海さんは、幸せを見つけるのが得意だねぇ」 四つ葉のクロ
ーバーは、幸せのシンボルとして知られている。聞けば鳥海さ
んは、四つ葉のクローバーを見つけるのが得意らしい。
何でも、たくさんある三つ葉の中で、四つ葉が光って見えるら
しい。どうにも信じがたいが、事実、その後も鳥海さんは歩き
ながら次々と四つ葉のクローバーを見つけていった。幸せに巡
り合う名人というのは、本当にいるものなのだ。
鳥海さんが、どうして学校に来ない時期があったのか、そんな
ことは私には関係はない。ただ、私はいつも雑草の生き方に励
まされる。そして、雑草の生き方を参考にしている。
だから、雑草の生き方を見ることは、きっと鳥海さんの力にな
るのではないかと何となく思った。
話を聞けば、鳥海さんはとても頑張り屋だ。十分に頑張ってい
るのに、「もっと頑張らなきゃいけないのに……」と思ってい
る。そして、思うように頑張れない自分が嫌いになってしまう
のだ。
私は言った。「雑草ってさぁ、頑張っているように見えるよね」
「はい」 「でも本当は、頑張ってなんかいないよ」 「えっ?」
鳥海さんが驚いた顔で私を見た。
「雑草は踏まれても踏まれても立ち上がるって、言うでしょ」
「はい」「でも、見てごらん、踏まれている雑草は立ち上がっ
ていないでしょ」
私は畑の道に生えている雑草を指さした。「踏まれている雑草
は踏まれても大丈夫なように、立ち上がらずに寝そべっている。
別に立ち上がらなくたっていいんだよ」「雑草魂って言うわり
には、何だか情けないですね」鳥海さんが笑っている。
「雑草にとって大切なことは何だと思う」「タネを残すことで
すか?」 「そうだよね。そうだとしたら、踏まれても踏まれ
ても立ち上がるって、ムダなエネルギーを使っていると思わな
い」
「確かにそうですね」 「だから雑草は踏まれたら立ち上がら
ない。そして、踏まれながらタネを残す方にエネルギーを使
うんだ」
「そう考えると立ち上がらないってすごいですね」「大切なこ
とを見失わない、それが本当の雑草魂なんだ」
「……」鳥海さんは黙っている。「授業でやったよね。雑草の
タネは環境が合わなければ芽を出さないって。無理して頑張ら
ないのが雑草の生き方なんだよ」
「私、『置かれた場所で咲きなさい』という言葉が好きだった
んです。与えられたところで頑張ることが大事だと思っていた
んです。
でもその言葉がずっと重荷だったんです。本当は、置かれた場
所で芽を出さなくてもいいんですね」
渡辺和子さんの「置かれた場所で咲きなさい」は、私も大好き
な言葉だ。しかし、受け手の心の状態によっては、この言葉に
苦しむ人もいるのだ。
言葉というのは、本当に難しい。それにしても鳥海さんの「置
かれた場所で芽を出さない」もすてきな言葉だ。
「そうだね、水辺の雑草が水のないところで頑張っても意味が
ないからね。水が溜まるのを待つのが正解だよね」
「雑草は頑張らない」それが、鳥海さんが気づいたことだ。鳥
海さんは四つ葉のクローバーを探すのが得意である。その特技
を活かして、広い農場のどこに四つ葉のクローバーが多いのか、
くまなく調査をした。
その結果、どうだろう。じつに興味深いデータを得ることがで
きた。初夏には茶畑の周辺で四つ葉が多くなり、冬になるとミ
カン畑で四つ葉が多くなることが明らかとなったのだ。
どうして、そんなことが起こったのだろう。おそらくは、こう
だ。茶畑では4月の終わりから5月にかけて茶の収穫をする。そ
のため、たくさんの人が茶畑に入ったり、軽トラや機械が農道
を通る。こうして踏まれることによって、その後の初夏に四つ
葉が多くなるのだ。
ミカン畑も同じである。温州ミカンの収穫時期は冬である。そ
のため、冬の初めになると人がミカン畑に頻繁に入り、軽トラ
や運搬車も行き来する。
こうして踏まれることで四つ葉が増えるのだ。
ミカン畑では、その後、四つ葉は減少するが、春先に剪定せん
てい作業が行われると、四つ葉が増加した。
また、カキ畑でも剪定作業の後に四つ葉が増加した。あまりに
も鮮やかに、作業で踏みつけた後に四つ葉のクローバーが増加
する傾向が得られた。「幸せの四つ葉のクローバーは踏まれて
育つ」は本当だったのだ。
さらに鳥海さんは、温室の中で育てたシロツメクサに10キログ
ラムの漬物石を乗せて踏み続けて、踏みつけることで四つ葉の
クローバーの発生率が高まることを実験的にも証明した。…
※~
ヨーロッパの福祉大国であるデンマークやスウェーデンには、
いわゆる寝たきり老人はいないと、どの福祉関係の本にも書か
れています。
他の国ではどうなのかと思い、学会の招請講演で来日したイギ
リス、アメリカ、オーストラリアの医師をつかまえて聞くと、
「自分の国でも寝たきり老人はほとんどいない」とのことでし
た。
一方、我が国のいわゆる老人病院には、一言も話せない、胃ろ
う(口を介さず、胃に栄養剤を直接入れるため、腹部に空けた
穴)が作られた寝たきりの老人がたくさんいます。
不思議でした。日本の医療水準は決して低くありません。むし
ろ優れているといっても良いくらいです。
「なぜ、外国には寝たきり老人はいないのか?」
答えはスウェーデンで見つかりました。認知症を専門にしてい
る家内に連れられて、認知症専門医のアニカ・タクマン先生に
ストックホルム近郊の病院や老人介護施設を見学させていただ
きました。
予想通り、寝たきり老人は1人もいませんでした。胃ろうの患
者もいませんでした。
その理由は、高齢あるいは、がんなどで終末期を迎えたら、口
から食べられなくなるのは当たり前で、胃ろうや点滴などの人
工栄養で延命を図ることは非倫理的であると、国民みんなが認
識しているからでした。
逆に、そんなことをするのは老人虐待という考え方さえあるそ
うです。
日本のように、高齢で口から食べられなくなったからといって
胃ろうは作りませんし、点滴もしません。肺炎を起こしても抗
生剤の注射もしません。内服投与のみです。
したがって両手を拘束する必要もありません。つまり、多くの
患者さんは、寝たきりになる前に亡くなっていました。寝たき
り老人がいないのは当然でした。 …
欧米が良いのか、日本が良いのかは、わかりません。
しかし、全くものも言えず、関節も固まって寝返りすら打てな
い、そして、胃ろうを外さないように両手を拘束されている高
齢の認知症患者を目の前にすると、人間の尊厳について考えざ
るを得ません。
家内と私は「将来、原因がなんであれ、終末期になり、口から
食べられなくなったとき、胃ろうを含む人工栄養などの延命処
置は一切希望しない」を書面にして、かつ、子供達にも、その
旨しっかり伝えています。…