戦国に生きる:魏国興亡史・シニア徒然ブログ
鬼谷の教え:この作品は史実をモチーフとしたフィクションです。
鬼谷きこくとは江南の陳国に生まれた人物で、弁論の術を学問とし
て体系化し、それを書物に著したのだという。
智者は自らの悪い部分を用いず、かえって愚者の良いところを用
いるものだ。自分の下手な部分を用いず、かえって愚者のうまい
ところを用いるものだ。だからこそ智者は困ることがないのである。
それが利益になると主張する者は、そのうまみを吸おうとしてい
るのであり、それが害になるという者は、悪い部分を避けようと
しているのだ。
殻を持った生物の強みは、その殻の厚さによっているし、毒虫の
動きは、必ずその毒という強みによっているのである。
獣はその強みを用いることを知っており、人と話す者もまたそれ
を知って、用いるべきなのである……「鬼谷子」
(攻防)
古之大化者、乃與無形俱生。反以觀往、覆以驗來。反以知古、覆以
知今。反以知彼、覆以知此。動靜虛實之理不合於今、反古而求之。
事有反而得覆者、聖人之意也、不可不察。
(いにしえの聖人は、無形とともに生きた。『反』をもって今まで
を見ることで、その『覆』でこれからのことを考えた。『反』をも
って過去を知り、『覆』をもって今を知った。『反』をもって彼を
知り、その『覆』から己を知った。現在の動静虚実が理に合わない
と感じれば、過去に『反』してその答えを求めた。『事』の解決の
ためには『反』して『覆』を求めることが、聖人の姿勢である。
ぜひ知っておくべきである……「鬼谷子」反応第二)
鬼谷は、「問いかけ・働きかけ」のことを「反」と自らの著書の中
で称する。それに対する「応答や反応」を「覆」と称した。働きか
けがあれば反応があるのは自然の摂理であり、それを「無形」と称
したのである。
物事には順序というものがあり、それを正しく知ることが重要なの
だと鬼谷は説く。原因と結果を正しく知るためには、自らが働きか
ける(反)ことが要件であり、無作為の状態ではいずれも得られ
ないのだ。
しかし実社会では、物事の原因は複雑に入り交じっており、その反
作用も多岐にわたるものである。ゆえにひとつひとつを正しく把握
しておかなければ、求める結果は決して得られない。
邯鄲を占拠した魏軍は、作戦の成功を確信していた。龐涓にしても、
すでに公叔痤が死んだという事実こそ知らなかったが、その遺志を
成就させたという思いで満足したに違いない。
古くからの大都市である邯鄲を支配することは、それだけ彼らにと
って意味のあることであった。しかし覇権を強化しようとする魏を、
他国がそのまま指をくわえて眺めているなどあり得ない。斉はこれ
に挑戦することで、自らがそれに取って代わろうとした。
孫臏はその軍事を司り、ついに龐涓と直接勝負することになる。ふ
たりの諍いが、大陸の行く末を大きく左右しようとしているのだった。
(桂陵)
ごく短期間の平和な日々を過ごした彼らのもとに、それが本当の
意味でごく短期間であったことを思い知らされる知らせが届いた。
太子が休息を命じた五日後のことである。
「斉軍が動いただと? ここに向かってくるのか。到着は何日後か」
太子に重ねていくつもの質問をされた伝令は、そのすべてを否定す
る返答をした。
「斉軍はすでに動いており、しかも目的地はここ邯鄲ではありません。
従って到着することもなく……」 「では、どこに向かっているのか」
「大梁です」
その返答に太子は言葉を失った。彼は龐涓を顧みて、どうするべき
かを目で問うた。
龐涓は答える。 「いま大梁にはまともに軍隊と呼べる組織があり
ません。ここは私が一部の兵を率いて急行するとしましょう。途中
で濮陽に残してきた守備兵を吸収して、斉軍と対峙します」
「間に合うのか」 「正直に申せば、わかりません。だが、言って
みれば、これは誘い出しの策です。つまり斉軍は、この策をもって
魏を邯鄲から引き剥がそうとしている……しかしそうはいきません。
太子はここにお残りになって、これまで通り防備を固めてください。
斉軍には、私が対応します」 「だがそれでは将軍が少数の兵で敵と
戦わねばならなくなる。伝令、斉の兵数はどれくらいだ」
「八万から九万ほどだと言われています」 伝令の返答に、さすが
に龐涓も覚悟を決めざるを得ない気持ちになった。
龐涓が自分の兵を率い、途中で濮陽に残してきた兵をあわせたとし
ても、せいぜい二万から三万ほどしか用意できない。敵はおよそ三
倍であり、いくら魏軍の質が高くても不安は拭えないであろう。
「敵の指揮官は誰か」 太子申は使者に改めて問うた。その返答は龐
涓にとって重いものであった。
「田忌と称する将軍を、両脚のない軍師が支えていると言われてお
ります。軍師は自らを孫臏と称しているとか……」
ついに来たのだ。奴が来た。やはり殺しておくべきだった……自分
の中途半端な処置が国を危機に陥れている。龐涓はそう感じざるを
得なかった。つくづく自らの行為を後悔した龐涓であった。
しかし何を考えてももう遅い。前回殺せなかったのであれば、次に
会ったとき殺すまでだ、と非情な決意をするに至った。公主娟がこ
こにいれば、激しく諫められていたことだろう。しかしそれによっ
て決意を揺るがされることはない、とも龐涓は思った。
「繰り返すようですが、太子は決してここを動かないようにしてく
ださい。たとえ私の身がどうなろうとも、邯鄲は死守してください
ますようお願いします」
龐涓は考えた。斉が企図しているのは邯鄲の開放だろう、と。しか
し孫臏は自分をおびき出して対決することを欲しており、そこに付
け入る隙があるのではないか……。
つまり自分が戦場で孫臏に敗れたとしても、邯鄲を維持しさえすれば、
その意図を妨げることが可能だ、というのである。まして斉を返り討
ちにすることができれば……。
「欲張りすぎというものだな。ここは我が身よりも邯鄲の維持を優
先するべきだろう」 この種の判断をいともあっさり下すところが、
龐涓らしさであった。
しかしこれも彼の意地なのかもしれない。大梁には許嫁いいなずけ
の如公主娟がおり、息子同様に愛情を注いでいる旦がいた。
また、彼はこの時点で敬愛する公叔痤の死を知らない。邯鄲うんぬ
んより、大梁を救うことが本音であったとも思われる。
いずれにしても、龐涓に採るべき道はほかにない。ここは自分が遠
征し、容易に邯鄲を放棄する姿勢を見せるべきではなかった。彼は
部下を引き連れ、大梁へ向けて出発した。 …
先日、自営業をしている友人が「仕事に行き詰まり、先が見えなく
なった」というようなことを言ってきた。
ちょうどいいタイミングで「オラクルひと・しくみ研究所」の小阪
裕司さんの、本を紹介した。
「あなたのお店の商品が売れないのは、近くに大型ショッピングセ
ンターができたからじゃない。同じ物がネットで安く売られている
からでも、不景気だからでもない。お客があなたの店でその商品を
『買いたい』『何がなんでも買いたい』と思っていないだけです」
「商業界九州沖縄ゼミナール」で小阪さんはこう語っていた。まず
最初に、ある過疎の町にある50坪ほどのスーパーの事例が紹介され
た。年々売り上げが減り続け、オーナーの鈴木さん(仮名)は「こ
こでスーパーを続けるのは無理」と廃業を決意した。
そして新たな事業を起こそうと、小阪さんが主宰する「ワクワク系
マーケティング実践会」に入会した。
結果、どうなったか。鈴木さんは廃業を思いとどまり、もう一度同
じ場所で商売を続けることにした。
その後、売り上げは回復し、しかも毎年過去最高の売り上げを更新
しているという。 店名を変えたわけでもなく、改装してイメージ
チェンジを図ったわけでもない。売っている商品も値段も以前と同
じだ。
また、通販や宅配などの新事業を始めたわけでもない。鈴木さんが
変えたのは一つ。冒頭に紹介した小阪さんの言葉に刺激され、考え
方、すなわち頭の使い方を変えたのだった。
それまでは、たとえばお客が牛乳を買いに来る。入店し、牛乳が並
んでいる所に行って、牛乳パックを掴み、レジでお金を払って出て
いく。滞在時間は約1分半。売り上げは198円。
小阪さんは鈴木さんに聞いた。「お客さんは牛乳が置いてある所に
行くまで、なぜ途中の商品の前で足を止めなかったのでしょうか?」。
鈴木さんは言った。「そんなこと考えたこともありません」 ここ
に原因があった。小阪さんは言う。
「近くに量販店ができたからとか通販をやっていないからなど、原
因を取り違えると打つ手を間違えます」 注視すべきは入店したお
客の「行動」だという。お客が「いくつかの商品の前で足を止め、
それらの商品を買い物かごに入れ、元々買うつもりだった牛乳と一
緒にレジに持っていく」という行動を取れば売り上げは3倍にも5
倍にもなる。
その予定外の「行動」は何がつくり出すのか。間違いなく「心」だ。
「欲しくなった」という心の衝動が「買う」という行動の背景にあ
る、と小阪さんは言う。
ここで多くの人が「鈴木さんは何をしたのか」を知りたがる。しか
し大事なことは鈴木さんがやった「必殺技」ではなく、そこに至る
までの「ワクワク系」の考え方、頭の使い方なのだそうだ。
小阪さんが提案する「ワクワク系」とは、「商品の価値をお客の感
性に訴えることで価格競争に巻き込まれず、適正価格でもお客は喜
んで買う、そのための理論と手法」を意味する。
たとえば、「これはフランス原産の赤ワインで、商品名は〇〇とい
います。〇〇と〇〇など4種類のブドウから生まれたワインです」
と説明されても心は動かないが、「実はフランスに天才醸造家が政
府に逆らってまでして作ったワインがあります。有名な〇〇という
ワイン評論家が『彼のワインを見つけたら走って買いに行け』と言
っているほどです。これがそのワインです」と説明されると、心が
動き、ちょっと飲んでみたくなるのではないだろうか。
「どんな情報を提供するかでお客の心が動き、行動が変わり、売り
上げが一変します」と小阪さん。 ……