番外編・シニア徒然ブログ

※~
保護犬出身の 文福ぶんぷく は、一緒に暮らす入居者様が亡くなるこ
とを察知して、寄り添って 看取みと るという不思議な力を持ってい
ます。実は以前、それと非常によく似た力を持っている猫がいまし
た。私たちが「癒やし猫」と呼んでいた、やはり保護猫出身のトラ
です。
トラは2012年4月、私が経営する特別養護老人ホームが開所す
るのと同時にやってきて、18年12月に死ぬまで6年半、ホーム
で暮らしました。その間、大勢の入居者様を看取ってきました。
文福の看取り活動には段階が決まっていました。入居者様が亡くな
る2~3日前に、その方の居室の扉の前でうなだれています。その
翌日くらいに居室に入り、ベッドの傍らで見守ります。最後はベッ
ドに上がり、入居者様に寄り添って看取るのです。
トラにはそのような段階はありませんでした。入居者様が弱ってく
ると、ベッドに入って寄り添い、そのまま看取るのです。一点、文
福とは大きく異なることがあり、トラはご入居者様が亡くなる前だ
けでなく、病気等で弱って寝ている時にも寄り添いました。
ご入居者様を看取るだけでなく、癒やすこともするのです。だから
私たちは、トラは癒やし猫だと思っていました。
そんなトラに最も癒やされたのが、斎藤幸助さん(仮名、80歳代
男性)です。斎藤さんは、猫好きの方がそろっている猫ユニットの
ご入居者様の中でも、一番の猫好きではないかと思われる人です。
とにかく猫が大好きで、子供の頃から常に猫を飼っており、それま
でに飼ってきた猫の数は実に50匹以上! 斎藤さんの人生は、猫
抜きでは語れないものだそうです。
そんな斎藤さんも高齢になり、奥様に先立たれたのをきっかけに、
新しい猫を迎え入れることをあきらめます。猫好きの方(犬好きの
方も)の多くが、高齢になるとする決断です。最後の猫が死んで、
猫がいない生活が始まると、斎藤さんは元気がなくなり、瞬く間に
弱っていってしまいました。しかも認知症も発症してしまいました。
※~ホームで再び猫との暮らしを
配偶者が亡くなったことをきっかけに認知症になる高齢者は少なく
ありません。特に奥様を亡くした高齢の男性が認知症になってしま
うのは、私も多くの例を見てきました。
しかし、ペットがいなくなって認知症になってしまった方は初めて
見ました。ただ、それは、それまで私たちが気がつかなかっただけ
かもしれません。おそらく世の中で、ペットがいない生活になった
高齢者が認知症を発症するということは、多くはないにしても、時
々あることだろうと思われます。
すっかり活気がなくなり、自ら歩くことが少なくなった斎藤さんの
足腰は弱っていき、車いすを使う生活になってしまいました。認知
症も進行し、ほとんど言葉を発しなくなり、表情も失われました。
そんな斎藤さんを心配して、息子さんがさくらの里山科へ入居を申
し込んできました。ホームで再び猫との暮らしをすれば、少しは斎
藤さんの状態が良くなるだろうと期待してのことです。
息子さんの期待は最高の形でかなえられました。斎藤さんは劇的な
回復を見せたのです。その原動力はトラでした。トラは、斎藤さん
が初めてホームに来た時、車いすに座る斎藤さんの膝の上に飛び乗
り、おなかにスリスリして、大歓迎をしました。
それ以来、トラは斎藤さんの大のお気に入りになったのです。トラ
と一緒にいる時、斎藤さんの顔には生き生きした表情が浮かんでい
ました。トラを探して、手すりにつかまりながら歩き回っているう
ちに、車いすは不要になりました。
老人ホームに入った入居者が、整った環境と充実した介護体制によ
り元気になることは多いのですが、これほど劇的に回復した方は珍
しいです。こういうことが起きるのも、トラと文福の共通点ですね。
※~ホームで再び猫との暮らしを
斎藤さんは歌がお好きで、よくリビングの床にあぐらをかいて大声
で歌っていました。その脚の間には、トラがちょこんと座っていま
す。そうしていると他の猫たちも集まってきます。猫に囲まれて歌
う斎藤さんの姿は、おとぎ話の主人公みたいでした。
斎藤さんはリハビリも頑張っていました。毎日、車いすを押して、
廊下を何往復も歩いたのです。車いすの上にはトラが鎮座していま
した。職員がそうさせたのではありません。誰に教えられたわけで
もないのに、トラは自ら斎藤さんが押す車いすに座っていたのです。
まるで斎藤さんを応援するかのように。
気まぐれな猫が、飼い主ではない人のリハビリに付き合って、揺れ
る車いすの上でじっとしているなんて信じられないことです。まさ
に癒やし猫の本領発揮、というところでしょうか。
※~ 願い通り、トラに看取られ旅立ち
「俺はトラに看取ってほしいんだよ」。これが斎藤さんの口癖でし
た。その願い通り、斎藤さんがご逝去された時には、その枕元にト
ラが寄り添っていました。トラに看取られて斎藤さんは旅立ったの
です。
トラをはじめとする大好きな猫たちと一緒に暮らした最期の2年間、
斎藤さんは幸せだったと思います。斎藤さんを幸せにできたという
一点だけでも、私たちが挑戦している、ペットと暮らせる特別養護
老人ホームという取り組みには意味があったと思っています。…
※ ~
子供は小学校2年生の女の子。農村に住んでいます。この子は、学
校から一目散に家に帰っていきます。家に帰ったらお母さんが待っ
ていてくれる。やさしい顔で、自分を迎えてくれる。そして「お腹
すいたやろ、お食べ」といって手づくりのおやつを出してくれる。
それが楽しくて、この女の子は家に帰っていくのです。しかし農業
という仕事は、母親も貴重な労働力です。たいていは夫、義父、義
母などとともに、田畑に行って農作業に従事しているのが、日本の
農家の母親の皆さんです。女の子の母親も例外ではありません。
一目散で家に帰ってみたら、家の木戸は閉まっていました。これは、
お母さんが留守という証拠です。女の子は、ちょっぴりがっかりし
ました。そして、「よいしょ!!」と声をかけて戸を開き、家のな
かに入りました。
家のなかに入って、びっくりしました。土間いっぱいに何か描かれ
ています。お母さんの顔だ。消し炭でお母さんが書いてくれたんだ。
その隣には字が書いてある。
「お帰り。お母さんは焼畑に出かけています。戸棚のなかにおやつ
が入っているから、それを食べて待っててね」女の子は嬉しくなり
ました。
そして自分も消し炭をもってきて、お母さんの顔のよこに、ちいちゃ
く自分の顔を描きました。リボンをつけた女の子です。その子に手
を描き加えました。手はお母さんの肩のところまでいき、肩たたき
をしています。
書き終えた女の子は満足でした。お母さんがいなくても、ちっとも
寂しくありませんでした。手を洗い、戸棚からおやつをとりだし、
食べながらずっと土間に描かれたお母さんと、リボンをつけた自分
の絵を見て、お母さんが帰ってくるのを待っていました。
この女の子の母親は、どんな気持ちで学校から自分の子供が帰って
くるかを知っています。また、子供も、そんな母親の気持ちを十分
理解しています。この母親もまた無名です。
しかし、なんとすばらしいお母さんでありましょう。夕方になって、
焼畑から帰ってきた母親は、土間に描き加えられたもう1つの小さ
な顔をみて、きっと嬉しくなったことでしょう。その晩の食事は、
消し炭の母子像の話題で、きっと賑やかになったであろうことが想
像できます。
そこには家庭があります。子供を育む母の愛があふれています。私
はこの話を、その女の子の作文から知りました。いい話だなァ、と
胸のなかがじわじわと暖かくなっていく気がしました。
一昔二昔前の話でしょうが、このように愛情を注ぎ合いながら育っ
た子供には今の世の親殺し子殺しなど無縁のことでしょう。この子
供が親になった時、自分が与えられたのと同様に愛情を注ぐでしょ
う。…







